資料を送れないまま、連絡が止まってしまったとき ― 詰まりの4つのタイプと、今日ほどける手順
税理士から頼まれた資料を、まだ送れていない。二週間が一か月になり、一か月が三か月になった。督促の通知が画面に出るたびに胸が重くなるけれど、開かないまま日が過ぎていく。――ご相談を受けるなかでも、しばしば耳にする状況です。そして、ここまで来た方のほとんどが、自分のことを「だらしない人間だ」と思っています。しかし、実際には、その考えは逆なのかもしれません。
1. 止まっている人ほど、真面目である
資料が出てこない顧問先は、税理士の側から見ると「連絡がつかないお客様」に見えます。ところが、ご本人にお話を伺うと、事情はほぼ例外なく次のとおりです。「資料をきちんと揃えてから返信しなければ」と思っている。資料が揃わないから返信できない。返信できない日が続くほど、返信するときに説明しなければならないことが増える。説明することが増えれば、さらに返信しにくくなる。
このスパイラルの始まりにあるのは、怠慢ではなく責任感です。そこにあるのは、中途半端なものを渡して相手の手を煩わせたくない、という配慮です。ですから「気合いを入れて片付けよう」という対策は、たいてい効果がありません。もともと真面目にやろうとしているのですから、真面目さを足しても悪循環からは抜けられないのです。
このスパイラルから抜けるとしたら、その方法はひとつです。「資料が揃ってから送る」という前提を外す。この記事は、そのための手順を書いています。
2. 詰まりは、だいたい4つのタイプに分かれる
「資料が出せない」とひとことで言っても、中身は同じではありません。ご相談を伺っていると、おおよそ次の4つのどれかです。自分がどのケースに当たるのかを言葉にするだけで、次の一手が変わります。
単純に、忘れていた
他の仕事の途中で資料の依頼が来て、「あとで見よう」と思ったまま忘れていた。悪気もなく、ただ通知が流れていっただけのケースです。このようなケースはいちばん多く見受けられますが、解決もいちばん簡単です。気づいたときにすぐ送れば、それで終わりです。
何を送ればいいのか、実は分かっていない
「補助元帳を」「期末の残高が分かるもの」と言われたが、それが自分の手元にあるどの資料を指すのか判別できない。聞き返すのが恥ずかしくて、分かったふりのまま止まる。これはご本人の性格の問題ではなく、共通言語の問題であることがほとんどです。
探したが、見つからなかった
心当たりのある場所を探したけれども、資料が見つからない。「失くしました」と言うのが後ろめたくて、もう少し探してから返信しようと思い、そのまま時間が過ぎていく。実際には、失くしたと伝えると税理士から代わりの確認方法が示されることが多いです。ですから、ご自身のところで止めておく意味はほとんどありません。
そもそも、まだ作っていない
在庫の一覧、走行記録、家事按分の根拠。求められているのは「探す」ではなく「これから作る」もので、資料を作るのにまとまった時間が要る。前の3つと違い、これはクライアント側に作業が残っているタイプです。だからこそ、いつやるかを決めない限り、前には進みません。
タイプ1とタイプ3は、今日この記事を読み終えた直後に解決します。タイプ2は、聞き返せば解決します。実は、解決に時間がかかるのはタイプ4だけです。手が止まっているものの大半は、実は作業の重さではなく【気の重さ】で止まっている――多くの方は意外に思われるかもしれませんが、これが事実です。
3. 「揃ってから送る」をやめる
では、具体的にどうするか。私がおすすめしているのは、次のやり方です。
今日、手を動かす順番
- 依頼されていた項目を、思い出せる範囲で箇条書きにする(正確でなくてよい)
- そのうちいま手元にあるものだけを、加工せずそのまま送る
- 残りについて、上の4つのタイプのどれなのかを一行ずつ書き添える
- タイプ4のものだけ、着手する日をその場でカレンダーに入れる
- 長い謝罪文を書く必要はない。「ご連絡が遅くなりました」の一行で十分
ポイントは二つあります。ひとつは加工せずに送ること。「見やすく整えてから」と思った瞬間に、それが次の宿題になって、また手が止まります。写真でも、スクリーンショットでも、そのままの通帳の画像でも構いません。整える作業は、受け取った側のほうが得意なことが多いのです。
もうひとつは返信に【まだ送れていない理由】を書き添えることです。「この資料は探しましたが見つかりませんでした」「この依頼は何を指すのか分かっていません」と書いてあれば、相手は次の一手を返せます。何も書かずに一部だけ届くと、残りは「まだ探している最中」と解釈され、待たれてしまいます。空白の正体が伝わっていないことが、待ち時間の主な原因であることも多いです。
謝罪の分量と、事態の改善は関係がありません。それどころか、丁寧な謝罪文を書こうとして下書きのまま送れなかった、という話をよく伺います。立派な謝罪文より、今日届く資料のほうが価値があります。
4. それでもほどけないなら、頼み方の側を見る
ここまでは、クライアントの手元でできることです。ただし、何度やり直しても同じところで止まるなら、原因はご本人の性格ではなく、顧問税理士の依頼の伝え方にあるかもしれません。例えば、次のような状態が続いていないか、思い返してみてください。
- 依頼が毎回ばらばらの経路で来る(電話・メール・チャット・面談の口頭が混在している)
- 何を出せばよいかは書かれているが、どの形式で、いつまでにが書かれていない
- 督促の連絡は来るけれども、「どこで詰まっていますか」という問いかけは一度もない
- 送った資料が届いたのかどうか、返事がなく分からない
- 同じ資料を、毎年同じように依頼される(前年と同じ形で済むはずのものも含めて)
これらは、顧問税理士の能力の問題というよりは、運用が決まっていないだけのことが多く、クライアント側から伝えれば直ります。「うちは毎回ここで手が止まってしまうので、やり取りの仕方を一緒に決めませんか」と切り出すのが、いちばん角が立たないでしょう。共有フォルダを一つ決める、依頼はチャットツールに一本化する、期末に必要なものは年初に一覧表にして伝えてもらう。決めごとを三つ作るだけで、翌年の負担は目に見えて軽くなります。
不満として伝えるべきか、それとも変えるべきかで迷ったときの考え方は、顧問税理士に不満があるときにまず取るべき行動で整理しています。
5. 資料が止まると、何が起きるのか
気まずさの話をしてきましたが、実務の側の話も正直にしておきます。資料が届かないことでクライアント側に生じる不利益は、締切に間に合わないことだけではありません。
大きいのは、選べたはずの選択肢が、時間の経過とともに消えていくことです。税務には、期限までに書面を出しておかないと後から選び直せない手続きがいくつもあります。判断のもとになる数字が手元にないと、税理士はその判断を勧めることも制することもできません。資料が三か月止まるというのは、その三か月のあいだ、相手が目隠しのまま伴走している状態なのです。この点は「知らなかった」では戻せないものがあるで詳しく書きました。
もうひとつは、納税額の見通しが立たないことです。数字が固まるのが遅れるほど、納付の直前になってはじめて金額を知ることになり、納税資金の準備が間に合わなくなります。資料を早く出すことの見返りは、気分がすっきりすることよりもむしろ、選択肢と時間が残ることです。
6. 今日送れる、一通のメッセージ
最後に、そのまま使える文面を置いておきます。長い空白のあとでも、これで問題なく再開できます。
ご連絡が遅くなり失礼しました。まだ全部は揃っていないのですが、いま手元にある資料だけ先にお送りします。
・通帳の画像:添付のとおりです
・在庫の一覧:まだ作れていません。来週中に作ります
・○○の書類:探しましたが見つかりませんでした。代わりになる資料があれば教えてください
今後、資料のやり取りは○○で共有することにしたいのですが、いかがでしょうか。
この一通で、顧問の側は止まっていた作業を再開できます。そして経験上、その後返ってくるのは叱責ではなく、「ありがとうございます、ではこれをいつまでにお願いします」という具体的な指示です。
まとめ
資料が出せなくなるのは、真面目さがあだになったときです。「揃ってから送る」をやめて、揃っていない状態のまま、詰まっている理由を書き添えて送る。それだけで、たいてい、止まっていたことが一日で動き出します。何度やっても同じところで止まるなら、資料のやり取りの決めごとが足りていないのかもしれません。そのときも、まずは今の顧問に「渡し方を決めたい」と伝えてみるだけで十分効果があるでしょう。
それでも変わらず、毎年同じ場所で消耗している――もし、そこまで来ているのであれば、体制が自社に合っているかどうかを一度だけ点検してみるのもひとつの方法です。私たちがお話を伺って、今のままで問題がないと判断すれば、そのようにお伝えします。
※本記事で紹介したご相談の例は、実際にお受けした複数のご相談をもとに、内容を匿名化・再構成したものです。特定の個人・法人を指すものではありません。
よくある質問
もう何か月も顧問に返事をしていません。今さら連絡しても大丈夫でしょうか?
大丈夫です。税理士の側は、返事がないお客様を怒っているのではなく、期限に間に合うかどうかを心配しています。空白が長かったことへの説明は一行で足ります。「ご連絡が遅くなり失礼しました。まだ全部は揃っていませんが、今ある分だけ先にお送りします」と書いて、手元にあるものを送ってください。長い謝罪文を書こうとすると、その文面を書くこと自体が先延ばしの理由になってしまいがちです。空白の長さより、いま動き出すことのほうが実を結びます。
領収書やレシートを失くしてしまいました。もう経費にできないのでしょうか?
紙の領収書が手元にないことだけを理由に、直ちに経費にできなくなるわけではありません。一般には、支出があった事実を示す記録、たとえば通帳の入出金、クレジットカードの利用明細、通販サイトの注文履歴、契約書、請求書のメールなどが残っていれば、そこから取引の内容を確認できることがあります。ネット上で購入したものは、購入先の管理画面からいつでも取得できることも多くあります。ただし、どの資料でどこまで確認できるかは、取引の内容や保存の状況によって様々です。失くしたことを率直に顧問税理士へ伝えて、代わりに何を用意すればよいかを聞くのがいちばん早いです。
資料を出せていないのは自分の側の落ち度なので、税理士の側にやり方を変えてほしいなど頼み事をするのは筋違いでしょうか?
落ち度の所在と、やり方を見直したいという相談は、切り離して考えましょう。何を、どの形式で、いつまでに出せばよいかが具体的に示されていない、督促はあっても手順の案内がない、といった状態であれば、依頼の仕方にも改善の余地があります。まずは「毎回ここで止まってしまうので、資料のやり取りの仕方を決めたいのですが」とフラットに伝えてみてください。多くの場合、それだけで運用は改善します。それでも変わらないときにはじめて、体制そのものが自社に合っているかを考えれば十分です。
まずはお気軽にご相談ください
ヒアリングとご提供いただいた資料をもとに、いまの状況を一緒に整理します。今の顧問のままで問題がなければ、その旨を率直にお伝えします。「こう伝えてみては」という助言だけで終わることもあります。セカンドオピニオンだけでも構いません。
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